< オフ会篇 > ニルバーナの男


昔、参加してた大喜利サイトに「T」という男がいた。

Tは函館出身で、僕の実家から歩いて30分程度の場所の出身だった。
ネットの人とは深く関わらない、と決めていたが「同郷の人」という共通項で親近感を持ち、すぐに会おうということになった。


オフ会と称し渋谷で待ち合わせした。
僕とT、Tの彼女(彼女もPという投稿者だった)そしてYという別の女性投稿者も一緒だった。
場所は渋谷のハチ公前。
今じゃ考えられないが、当時携帯を持ってなかった僕は

「ニルバーナのTシャツを着ていきます」

という彼が提案した手がかりのみでTを探すことになった。
おしゃれタウン渋谷に「ロックTシャツ着た人」などいるはずもないので、その程度の手がかりで十分と思った。

ハチ公前に着くと休日ということもあり150人ほどの人だかりができていた。
大丈夫か?一瞬不安になったが、こっちには強力な手がかり「ニルバーナ」がある。
さほど大事には考えず、群衆の中からニルバーナTシャツを探し始めた。


・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・


いない


渋谷でニルバーナTシャツなんか着てたらかなり悪目立ちそうなものだが、そんな負のオーラを発してる人はこの群衆の中に一人もいなかった。
いるのはシップスやジャーナルスタンダードで身を固めたオシャレボーイズ&ガールズのみだ。
しかしまだ冷静だった僕は


もしかして遅刻してるのでは?


そう自分を納得させ、30分ほど待つことにした。
しかしニルバーナは一向に現れる気配を見せない。
携帯もない。ネットカフェに入るための証明書もない。やらかしたと思った。
しかしこのまま帰るわけもいかないので、強硬手段に出る。


叫ぶ


人前でそんなことできるほどの強メンタルではない。
しかし文明の利器を持たない原始人にできることはそれぐらいしかなかった。


Tさんいまふかー、Tさーーん、Tさーーーー・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・


声ちっさ


しかもドモってる。元美術部の文化系男子には無理ゲーすぎた。
この渋谷の雑踏の中では僕の声など完全にかき消されてしまう。

作戦変更。
一人一人片っ端から声かけるローラー作戦で行くことにした。
幸いこっちには

「男1女2」
「大喜利してそうな顔」

というそこそこ強力な手がかりがある。もちろんニルバーナのロゴが見つかればそれで確定だ。
渋谷で知らない人に声かけるなど罰ゲームに近いが、会わないと2chでポンコツ野郎呼ばわりされる恐怖感(事前にオフ会すると書いてしまった)が勝り、すぐに行動に移した。

「Tさんでですか?」
「いえ」
「Tさんでですか?」
「はあ?」
「Tさんでですか?」
「きめーよ、誰?」
「Tさんでですか?」
「・・・・(無視)」
「Tさんでですか?」(26人目)
「・・・・・・・はい!!」
「!!!!!」

そこにいたのはおしゃれハットにメガネをかけた爽やか風青年「T」だった。

「良かった!!もう見つからないかと!」
「僕も心配で心配で!」
「こんなに人多いと思わなくて」
「いやいいんですよ。会えてよかったです」
「とりあえず居酒屋にでも移動しますか?」
「行きましょう!」

女性2人も安堵の表情でこの感動的な邂逅を喜んでいた。
てか、Tの彼女かわえええええ!!!

4人で談笑しながら109方面に歩き、ふとTの着ているTシャツに目を落とした。
そこには大きく







と書かれていた。


おしまい




後記
その後、Tとは2回会った。
一度バーで、僕がトイレ行ったわずか5分の間に、周りの客全員と友達になってたことがある。
そして帰りは誰とも知らないサラリーマンと肩を組んで帰っていった。
残された僕は食事代2万を全額払った。
自由すぎる男「T」、元気でいるだろうか?


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